退職金を原資に若者の未来へ投資。“誇れる奨学金”を目指す学奨財団の挑戦

calendar_today 2025-08-18 update 2025-08-18
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未来を担う若者を、本気で応援したい」その一心で、一人の会社員の退職金を原資として作られた奨学金財団があります。2022年に設立された「⼀般財団法⼈⼤学⽣奨学財団(以下、学奨財団)」です。
実は学奨財団の事務所は、株式会社エアークローゼットのオフィス内にあります。一個人が立ち上げた財団が、なぜファッションレンタルサービスを運営する企業の中にあるのでしょうか。その背景には、創設者自身の体験と、学生支援にかける熱い思いがありました。
今回は、学奨財団理事長の村中敏彦さんと、理念に共感して活動を共にするエアークローゼットCEOの天沼聰さんに財団設立の背景や奨学金事業にかける思いを伺いました。


画像の説明
一般財団法⼈ ⼤学⽣奨学財団(学奨財団)
https://gakusho.or.jp/
理事長:村中 敏彦さん(写真右)

京都大学法学部卒業。日本IBM・カネカを経て、1992年から日経BPにて編集記者、新規事業開発、マーケティング・コンサルティングに従事しました。退職後、2022年に自ら創設した学奨財団で理事長に就任。
株式会社エアークローゼット
https://corp.air-closet.com/
代表取締役社長 兼 CEO:天沼 聰さん(写真左)

英ロンドン大学卒業。「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」をビジョンに、2014年に株式会社エアークローゼットを創業。プロのスタイリストが選ぶ月額制ファッションレンタルサービスを国内で先駆けて展開しています。2022年には、東京証券取引所グロース市場に上場。学奨財団の評議員も務めている。

目次

  1. 奨学金事業を始めた理由
  2. 安心して応募してもらうための工夫
  3. 誇れる奨学金に
  4. メッセージ

設立のきっかけは、奨学金への“モヤモヤ感”

学奨財団を設立した経緯を教えてください

村中:
私が奨学金事業を志した原点は、大学時代にあります。もう40年以上前のことですが、私自身が奨学金を受けていて、とてもありがたい制度だと感じていました。 その一方で、公表されている選考基準が具体的でなかったり、面接官が高齢男性ばかりだったりしたことに、どこか『モヤモヤ感』がありました。

大学卒業後は、いくつかの企業に勤めました。仕事で多様な方と接するうちに、奨学金に対する『モヤモヤ感』を解消する方法が、徐々に明確になっていきました。 例えば選考委員には、若者の感性や文化を理解しやすい30〜40代の方がふさわしい。 性別や専攻分野にも多様性を持たせたほうが、応募者をより公正に評価できると考えるようになったのです。 2021年には、私の健康上の理由で会社を早期退職することになりました。 幸い、その後体調も回復したので、いよいよこの退職金を未来を担う若者に投資したいと考え、過去に感じた『モヤモヤ感』を解消できるような財団を設立することを決意しました。


学生に安心して応募してもらうための工夫

なぜ学奨財団の事務所は、株式会社エアークローゼット内にあるのですか?

村中:
私が退職後に個人的に始めた奨学金事業のため、自宅を事務所にする選択肢もありました。 しかし、それでは、学生や保護者が不安を感じるかもしれないと思いました。 そこで、前職でご縁のあった天沼さんにご相談したところ、エアークローゼット社の港区のオフィスを財団の事務所として使用することにご快諾を得たのです。 財団の予算には限りがあるため、事務所の賃料を払うよりも、学生の直接的な支援にお金を使いたいという思いがありました。

天沼:
最初にお話を伺ったとき、村中さんの「未来を担う学生を支援したい」という純粋な思いに深く共感しました。私財を投じて支援を行うことは、相当な覚悟と情熱がないとできません。 その思いに感銘を受けて、ぜひ協力させていただきたいと思いました。


透明性の高い選考基準で“誇れる奨学金”に

学奨財団の奨学金の特徴について教えてください
村中:
私たちの奨学金は『貧しいから』ではなく『優秀だから』受け取れる“誇りの持てる奨学金”を目指しています。 財団設立前に大学生にインタビューを行った際、多くの学生が「親が貧乏だと告白するようで、奨学金の話は友人としない」と話していました。 いまや大学生の約半数が奨学金を受給しているにもかかわらず、奨学金に対するネガティブな印象が根強いのです。 そこで当財団は『優秀だから奨学金をもらえる』と、誇れる奨学金にしたいと考えました。


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村中:
学奨財団の最大の特徴は、具体的で明確な選考基準をすべて公表していることです。 応募資格に保護者の所得基準(550万円以下)は設けていますが、選考の点数には一切影響ありません。 選考時に親の収入が関係すると、経済的な理由で奨学金がもらえたのか、自分の成績や小論文がよかったから選ばれたのか不明瞭になってしまうからです。

選考は、大学の偏差値(20点)、大学1年生のGPA(40点)、大学1年生の取得単位数(40点)、小論文(100点)の合計200点満点で評価されます。 配点が最も多い小論文のテーマは、毎年固定で『私のガクチカと社会』にしています(※ガクチカ=学生時代に力を入れたこと)。 学生時代に頑張ったことが、どう社会とつながるのかを考えるきっかけにしてほしいからです。面接では多様性に富んだ選考委員がその内容を深掘りし、彼らの将来性や意欲を見ています。

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村中:
さらに、応募から採用までのデータもホームページ上で公開しています。 応募者がデータをみて自分の点数と照らし合わせることができるため「この点数で合格するなら自分も応募してみよう」と考えるきっかけになるからです。

「自分の優秀さを活かして応募する意義がある奨学金」と思ってもらうことで、奨学金のイメージがポジティブなものに変わっていくと期待しています。


奨学金以外でも、学生の将来に繋がる人脈を提供

村中:
当財団の支援は、年間12万円を3年間給付するだけではありません。 お金を渡して終わりではなく、学生にとって本当に身になる支援とは何かを常に考えています。 例えば、毎年9月には奨学生や私たち役員、サポーター企業、当財団を応援する有識者の方々が集まるイベントを開催しています。 講演会や質疑応答、懇親会での交流を通じて、学生が社会人と出会い、キャリアのヒントを得る機会になっています。 また全国から選抜された優秀な学生同士で語り合えることも、大きな刺激になっているようです。

さらに学生一人ひとりのニーズに応えるメンタリングにも力を入れています。 例えば、法律家志望の学生に大手法律事務所の弁護士を、宇宙産業を志す学生には宇宙ビジネスの専門家と話す機会を設けました。 こうした『人脈』の支援も、私たちの財団ならではの価値だと考えています。


未来を担う学生たちへのメッセージ

奨学金の応募を考えている大学生たちへ一言お願いします
天沼:
この奨学金には、村中さんの熱いエールがこもっています。 だからこそ「もらえたらラッキー」ではなく、奨学金を活用して自分がやりたいことに本気で取り組み、未来の可能性を広げていってほしいです。 そして私たち支援する側の大人も、学生たちが未来に希望を持てるように、憧れられるような働き方、生き方をしていきたいと思っています。

村中:
当財団の理念は、若者の学びを応援し、奨学金をポジティブな選択肢の一つにすることです。 奨学生に選ばれることを誇りに感じてもらえるように、必要に応じて見直しは行いつつ、選考基準の透明性は今後も守っていきたいと考えています。
幸い、エアークローゼット社以外にも、私たちの取り組みにご賛同いただける会社が増え、多くのサポーター企業様からも資金やサービスの無償提供を頂いております。直近では、教育AIスタートアップのNuginiy社から事務合理化のソフトウェア開発にご協力いただくなど新しい挑戦も始めています。
奨学生の皆さんには、学生時代から多様な職種の社会人や、全国の奨学生たちと交流することで視野を広げて、未来に役立ててほしいです。




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